願いは叶えたけど・・・ 

   前回取材記事を載せると書いたのに様々な都合でエッセイになってしまって非常に申し訳ないです。今回は僕が以前書いたエッセイを載せたいと思います。今回あらためて読み返してみて「そういやこんなこと書いていたな」と思い出しました。読んでいただけたら嬉しいです。 

 

 僕には人生で一度はやってみたいこと(2度はいい)がけっこうある。アメリカを端から端まで車で横断するとか、納豆が好きな猫を飼うとか、某大学の事務室に「あの…授業がへそがひん曲がりそうなくらいつまらないので、その授業をやっている教授をすりこぎでひっぱたいてくださいませんか?」とお願いしにいくとか(えっと最後のは嘘だけど)。そしてそんな1度は人生でやってみたいリストにもれなく入っていたのが“髪を金髪にする”という計画だ。入っていたと書いたのは、最近僕はとうとう金髪にしたからだ。いやぁ、長年の念願がかなってよかったです。髪を金にした途端、周りの女の子にはチヤホヤされるし、スーパーのレジの店員さんはニッコリと笑いかけてくれるし、道端の猫はウィンクしてくれる。というのは全くの嘘で、むしろ事態は悪い方向に流れつつある。まあ色々と髪を金にすると困ることはあるのだけど(髪は痛むし、警察には無条件でやたら止められる)なんといっても困るのが服装だ。これまで僕は黒い髪をしていて当然服もそれに合わせたものを着ていたのだが、金髪にするとそうした服が途端に似合わなくなるのだ。特にシャツとの相性が悪くてシャツを着るとなんだかキメきれてない韓国の若者みたいになってしまう。でも僕は持っている服の7割ぐらいがシャツなのでしょうがいないから新宿のルミネに服を買いに行くことになる。

  メンズ服売り場に行って、僕がさあ何にしようかなと悩んでいると「お客様、どんな服をお探しですか?」という声が聞こえた。振り向くと若い男の店員さんが顔全体に営業スマイルを浮かべて僕の後ろに立っていた。これはなかなか厄介だぞ、というのがこの手の店員さんに出くわした時の僕のいつも抱く感想だ。「これ、どうですか。これ素材感がまじ気持ちいいんすよ」彼は僕がひるんでいることをいいことにグイグイと売り込んでくる。「ほら、ちょっと触ってみてください…ねっ!」「あ、なるほど…気持ちいいかも」「あっこれなんか季節的にもいいんじゃないですか」と彼は今度は別のセーターを持ってくる。こうなると僕はもうダメだ。決まりきった営業文句をつぎつぎと繰り出すマシンと化した彼を尻目にいそいそと逃げ出してしまう。こうした経験をするたびに僕はいつも思うのだけどデパートとかの服売り場にもスーパーに最近置いてある“レジ袋いりません”のカードみたいに“接客いりません”のカードを作って置いておけばいいのではないか。そうすれば僕みたいなお客さんも楽しんで買い物をすることができる。僕みたいなお客さんがルミネを出てどこにいくかというと結局ユニクロみたいな適度にほうっておいてくれる大型店に行ってしまうのだ。なんてことを自転車に乗りながらふと考えた。えっと、なんの話をしてたんだっけな。

 

今回をもって「かど」はしばらく休みます。

これまで読んでくれた方本当にありがとうございました。